この大陸へ渡ろうと思ったのは何故だったか

ふと、自身がネバーランドと呼ばれる大陸で暮らしていた時を考える


土地や人に眠る物語を探し、見つけ、映写機に収めて周る

そうして、得た物語を記録し、巡った場所で上映する


今と何も変わらない

ただ違うのは


あちらには自身以外にも多くの仲間が居り、此方にはまだ誰も来ていない、それだけだ

来て早々、一つの物語を収めるとは夢にも思わなかったが



柿の木、か



収めたばかりの物語をカラカラと上映する

上映場所は一本の柿の木の生える場所

上映の後、再びその場で映写機を逆回しに

此処数日、同じ事をずっと繰り返していた


巻き取りながら頼まれ訪ねた人々の様子を思い出す

多種多様、その言葉がしっくりと嵌まる

きちんと彼の死を伝えられなかった人も居るが



どうやら彼は好かれていたようだね

ん、恩人が良い者というのは喜ばしい事だ。そうは思わないかね、ん?




シルクハットを深めに被り誰へとも無く呟く

涙を流す少女達、すぐに戻ると笑う男性、まさかと言う表情を浮かべた者も居た

それら全てを収めて周った


収め終わればこの物語は彼の眠る場所へと埋められる

今月一杯はかかるだろうが、その後は彼の代わりに旅をしよう



ん、恩人との約定だものな

それに、旅は私の目的でもあるし丁度良い



懐から笑みの仮面を取り出すと顔の前にかざす

と、彼の表情も其れにそって笑みとなった



ん、私は笑顔で無ければな



映写機を抱えると彼は次の約束を果たす為に歩き出した

帝国との戦争も終わり、彼は一緒に居た者等と一番近くの都市ガスビアに暫く滞在する事になった

此処でなら自宅に届いている手紙の返事もゆっくりと書けるだろう

滞在中に書き上げて送り、帰ったら会いに行こう、そう思いながら街中を歩く


アズガルにーセラにーカジカさん、トゥーレさん、ムゾリさん、ナナイロさん、呼鳩さんに六識さん

後はーキーシェさんとLYNOさんとー狗李さん、シルさん、フォウリーさん、NAぁ。さん

それからそれから


指折数えながら歩く王都はビーストアークとは違い人間的な建築物が多く、国の違いを実感できる

と、都市の入り口に何か人だかりが出来ていた

行ってみれば


海が荒れていて別の大陸から到着すると言う予定の客船が転覆しそうだから人手が欲しい

余り時間が無いんだ、と叫ぶ港の職員…だろうか、数名の人間種が都市の者達に助けを求めている

呼応する様に多くの人が職員達に協力しようと都市から出る中、柿の木も少しの合間ならと初めての海へ向かう

聖都とガスビアの合間にある港

其処へ到着予定の大型の客船は、常に機嫌の悪い北方の荒波の腕の中で弄ばれていた

今にも転覆しそうな其れを見守る港の職員達

船はそれでも何とか港へ入ろうと激しい風に波を押し分け進む

港の傍には足の速い小規模の船がいざという時の為に待機をしており、もし転覆となれば助けに向かうのだろう


もう少し、もう少し。あと少し頑張れば港だ。無事着いてくれ


誰もが願っていた時こそ望まない事は良く起こる

船は転覆し、多くの者が冬の海へとその身を投げ出した

冷え切った両手を広げる青い世界へと


『いそげっ!』


誰が叫んだのだろうか

気がつけば彼は既に待機していた船へと乗り込んで居り、その船は転覆した客船へと向かっていた

潮風、海水は天敵だと言うのに

船から浮き輪のついたロープが何本も投げ出される

だが、数が足りない

多めに積んだとは言え大型の客船の乗客全てを救うには微々たる物だ


今まで生きていた彼ならば船にも乗らず見過ごすはずだったのに、気付けば彼は我が身にロープを巻きつけ海へとその身を躍らせた

周囲は海で、近くには彼の意思を繋ぐ樹は無いというのに


彼の大きめの身体には数名の乗客がすがりつく

が、冬の海の波は強く、船に引き上げられる頃には数名が一人二人になっている

船に引き上げられる度に彼はまた海へと飛び込む


何度繰り返したか


気付けば彼も船の甲版に救い出された乗客と共に並べられていた

その彼に一人の男性が近づいてくる


視線を向ける

水の滴るシルクハットを被り口ひげを蓄えた壮年の男性


「ん、おかげで助かった。が、君は無事かね。ん?」


彼は答えない

身体を震わせる為の空洞に海水が入っているからだ


「ん、返事が無いな。生きているのかな。どうだね。ん?」


頷きが返る


「ん、それならば良いんだ。献身は見事だが自分が倒れては意味が無い。そうは思わないかね。ん?」


首を振る


「ん、君はそうなのか。見た所樹木の精霊だが。海水は平気なのかな。ん?」


また首を振る


「ん、そうか。では、君はこのまま枯れるかも知れないな。どうかね、ん?」


首を振ろうとし…動きが止まり頷いた


「……ん、解った。助けられた者の務めだ。何か私に出来る事はあるかね。ん?」


ゆっくりと右手があがり


「ん、手を取るのだね。ん?」


頷きが返る前に手を握った

と、指が動いている。文字を書くように

其れをじっと見つめる男

指は暫く動き続けた後、止まる


「ん、そうか。其れらを届けて伝えてまわれば良いのかね。ん?」


頷き一つ

そして満足したような微笑み


「ん、解った。では、約束しよう」



男が頷きを返す



冬の海、船の上の約定

映写機と呼ばれる物を抱えた男と樹木の精霊が出会ったのは此れが最初

そして最後



丈夫な羊皮紙に何か書き込まれている

字は余り綺麗ではなく、書き手の意思を理解するには時間がかかりそうだ



二人の傍に在り続ける

一緒にと誘った旅


難しい  戦争  


帰りは  手紙 返事  申し訳ない



此処から先に書いてある事ははもはや文字の形を取っていない

読み進める事は難しいようだ

一通の手紙が届く

内容は


通達


兵士 懐炉 


オハナボウを率いトルスタン方面へ出征せよ

詳しい指示は現地にて上官の指示に従うように

合流不可能な場合は、臨機応変に対処せよ



手紙の内容は以上

不思議に思い城へと出向くと部隊へと案内される

部隊はオハナボウ…だけではなく彼らの機動性を補うためのひよこ虫も配備された混成部隊

私用にと一頭の大きなケルベロスも居る


「彼らをー率いてまずはー城へーかしら?」


案内をしてくれたアンデットは頷くと、手紙に無かった指令を伝える


可能な場合は帝都-トルスタン間の敵兵站、及び補給隊への攻撃を


そう伝えるとすぐに出立するようにと通達が降りる

前線はまだまだ兵の数が足りない

だからこそ次から次へと送り込まれているのだ、戦線を維持、若しくは帝国側へと拡大する為に


眠り粉をー使えるから夜襲にはー最適ーです、ね

これならーこの部隊だけでもー敵を選べば戦ってゆけるーかしら


火に極端に弱い部隊を確認しつつ戦術を組み立てる

森を基点とした一撃離脱

可能であれば殲滅

攻める場合の此方の攻撃力はオハナボウ達の眠り粉の効果にかかっている

逆に、受ける場合は自身がどれだけ良い場所に相手を引き込めるかに

森の中でならば確実に負けはしない

自負でもなんでもなく、ただ事実として浮かぶ


森は自身と彼らにとって難攻不落の城なのだから

木々の根が枝が敵を襲い邪魔をする

植物全てが相手の一挙一動を伝えてくれる

それらが敵と会わずに逃げる事も、奇襲をかける事も容易にしてくれる


うん、砂漠にさえー出なければ何とかーなります、よ、ね


足を取られ水分を奪われるあの地での戦闘はひよこ虫しか便りに出来ないのだから


考えながら準備をすると、城門へと向かう


世界を見て歩くには、戦争も知らねばならない

それも、最も深い所で

其れを見に行こう


世界を知る為に

それと、大切な友達が、戦争が苦手な獣と暮らす少女や蟷螂腕の少女が戦場へ行かなくて済む様に

久しぶりに紙に文字が刻まれる

持ち主は暫く動きが鈍かったようだ


書き記そうとーしておりましたーのに暫し動きが止まってーしまいました

今はーまだ

まだ、動く事をやめる訳にはーいかないのーです


小さな鬼の子とのー会話はとてもー楽しくありました

また、訪ねて来てー下さるーかしら

お国の事をー他者へ聞いたのはそういえばー私にしてはー珍しいーですね

どうしてーかしら、ね


ユウルさんとーお話できたのがーとても嬉しく

今までーイベント内でご一緒した事はあったのーですけれど中々じっくりお話しする機会は無かったのーですもの

名前の由来もー教えて頂きーましたし、色々話せる様にーなれると楽しそうーです


呼鳩さんからはー同属達に日向ぼっこポイントをー聞いてもらえないかトーお願いされてーしまいました

ふふっ、控えめなー図に乗り方なのーです

きちんとー聞いておきますーね

どれだけの場所をー教えて頂けるのーかしら


そうそう、小さい私はー…んー

やっぱりー良く解らないーのです(たはは


ユキさんはー精霊も妖精もー同じに見えるのーですって

私に人の区別が余りー出来ない事と同じなのーかしら

御知り合いの方々のー様に特徴的な方ばかりーでしたら見分けやすいのーですけれど

種族的特徴ばかりはー仕方ありませんーよね

教えて頂いたー厚みの在る刃への対処法

戦場へーしっかり持って行きましょう


キーシェさんがー訪ねて来て下さって色々御話をーしたのです

いたいのはー駄目だからって沢山とんでけをーしてくださったのーですよ

おかげでー私も元気になった気が致しーます

ふふっ、キーシェさんにはー不思議な力がーあるのかしらーね?

あの手のひらとはー違う力

何時かー握り締めてー差し上げたい小さなー手のひらはきっとー沢山の大事を護れるようにーなるのです


ああ、そろそろーやすみませんと

まだ本調子ではーありませんーし、ね



文字は此処で終わっている

今日は此処までのようだ