この大陸へ渡ろうと思ったのは何故だったか
ふと、自身がネバーランドと呼ばれる大陸で暮らしていた時を考える
土地や人に眠る物語を探し、見つけ、映写機に収めて周る
そうして、得た物語を記録し、巡った場所で上映する
今と何も変わらない
ただ違うのは
あちらには自身以外にも多くの仲間が居り、此方にはまだ誰も来ていない、それだけだ
来て早々、一つの物語を収めるとは夢にも思わなかったが
柿の木、か
収めたばかりの物語をカラカラと上映する
上映場所は一本の柿の木の生える場所
上映の後、再びその場で映写機を逆回しに
此処数日、同じ事をずっと繰り返していた
巻き取りながら頼まれ訪ねた人々の様子を思い出す
多種多様、その言葉がしっくりと嵌まる
きちんと彼の死を伝えられなかった人も居るが
どうやら彼は好かれていたようだね
ん、恩人が良い者というのは喜ばしい事だ。そうは思わないかね、ん?
シルクハットを深めに被り誰へとも無く呟く
涙を流す少女達、すぐに戻ると笑う男性、まさかと言う表情を浮かべた者も居た
それら全てを収めて周った
収め終わればこの物語は彼の眠る場所へと埋められる
今月一杯はかかるだろうが、その後は彼の代わりに旅をしよう
ん、恩人との約定だものな
それに、旅は私の目的でもあるし丁度良い
懐から笑みの仮面を取り出すと顔の前にかざす
と、彼の表情も其れにそって笑みとなった
ん、私は笑顔で無ければな
映写機を抱えると彼は次の約束を果たす為に歩き出した