ああくそ、さっぱり解らない
ですからー彼女の場合はーほら、この茎に指をー当ててみて、そうそう、もうー解るでしょう?此れを与えれば
あ、そうか。足りなかったのはこっちの栄養分か
ん、そうーです。もう何度目ーかしら、此れを教えるの
不出来な教え子で悪かったね、先生
ふふっ、人に教えるとー言うことは何度繰り返してもー楽しい事ですもの。私は今のままでもー良いですよ?
絶対嫌です。僕は立派な樹医になるんだから
あら、もう資格はーお持ちですのに。エルフですらー舌を巻く知識の持ち主はーそうはいませんよ?
先生みたいになりたいって事ですよ、ああもう、何ですかその顔。だから言いたくなかったんです、僕は!
ふふっ、だってー嬉しいのですもの。私みたいにーだなんて
だーっ、もう、ニコニコして!治療の邪魔だから少し離れてて下さいよ
目を離してもー宜しいのーです?
………う、時折は見てもらえると…助かります
ん、素直でー宜しい。でももう貴方だけでもー大丈夫。ですからー私はー少しふわふわしてー参りますね
余り遠くに行っちゃ駄目ですよ?僕から離れたら消えそうになるんだから
ふふっ、解ってー居りますから。教え子さんは心配性ーですね
寝覚めが悪いのは嫌なだけですっ!もう、早く行ったら良いじゃないですか
拗ねないー拗ねない。では、行ってー参ります
ん、行ってらっしゃい、先生
…………ふぅ、先生は何時もあんな調子だから参るよ
かれこれ十数年になるだろうか、彼に出会ってから
ある日、目が覚めたら心配そうに自分を覗き込む彼が居た
でも、ソレが見えているのは僕にだけで、当時仕えていたご主人様には愚か、周囲の人全てに見えていないようだった
時折、子供が何故か指を指す事があったけど、アレは見えていたのだろうか
その度に彼は近づいてしゃがみ込み、何か話している様だったから見えて会話もして居たのかもしれない
彼を精霊だと知ったのは出会って暫くしてから
タイミングを逃して聞けなかった頭に生える柿の枝の事を聞いた時だった
柿の木のー精霊なのーですよ、私
そう答えた彼の言葉は精霊なんて見た事が無かった僕には驚きで、精霊=幽霊なのかと疑ったぐらいだ
その後、幾人もの精霊種の方々と出会って僕は恥かしい誤解をして居たと気付くのだけど
あ、そういえばご主人様にも笑われたっけ。何を言ってるんだかって
思い出すと悔しいな、くそ
今の職に就く切っ掛けをくれたのも彼
出会って数ヶ月目だったかな、あれは
彼は弱っている草木や花を見つけると僕に教えてきて、どうにかして欲しいと頼むようになった
彼自身は触れる事が出来ないからって
おかげで僕は何時も少ない自分の時間を使って色々な草木の治療をして歩く羽目に…まぁ、おかげで今の僕がある訳なのだけれど
ご主人様にも不思議がられたなぁ
今までそんな事出来なかったのに急にどうしたんだい?って
彼の事を話す訳にも行かないから、前から興味があったとしか言えなかったけど、今思えばきちんと話すべきだったろうか
でも、もうご主人様はNL大陸に帰って、ご自身の商売に精を出しているしもう時効だと思う、そう言うことにしよう
結局、そうこうしている内に僕もソレが楽しくなってきて、この道を志したんだよな
まぁ、最初は当然彼の頼みを渋ったよ。だって僕らの様な従者は自分の時間なんて余り持てないんだもの
でも、なんていうか彼の頼みは断れなかったんだよなぁ、何でだったんだろう?
今では理由も解って当たり前の事だけど、当時は不思議だったな
それから僕が本格的に樹医の勉強を始めると、ご主人様は僕をエルフィネスの学校に放り投げて、此処で自分の未来を掴めといった後に僕を解雇したっけ
何から何まで御世話になったけれど、僕はそのお返しをまだしていない
立派な樹医になって名前がご主人様に届くようになれば恩返しになるんじゃないかと思って毎日頑張っているのだけど、まだまだ彼に頼る部分が大きいし
いや、樹医としての勉強は毎日しているのだけども…むぅ、悔しくなってきた
ああ、ごめんよ。君の治療を忘れていたね
いや、忘れていた訳じゃないんだけど…こういう時に先生みたいに会話できると楽だなぁって心底思うよ
気を悪くしたかな?ごめんよ
…………
ん、此れでもういいかな
後は経過を観察してと、君は恐らくもう大丈夫
あー、でも、他の人にこういう場面を見られたら変人扱いされるんだろうなぁ
植物に話しかける変な人
まぁ、先生と一緒に居たら何も無い場所に向かって喋ったりしてるから周囲からは既に変わり者扱いだけど
それでも仕事があるのは有り難い事だよ、本と
さって、先生を探しに出かけようか
どうせ行きつけの園芸店だろうし、あそこには知り合いが多いから御喋りに興じているんだろう
ああ、そうだ
君を日当たりの良い場所に置いてからの方が良いね
ん、これでよし
では、いってきまーす